みんな大好き”マーラーガオ”。
日本人がこれを作ると、大抵小さな紙の型に入れてカップケーキみたいにしやがる。
もっとドカッと作らんかい、ドカッと!
みみっちく作ると、人間までみみっちくなるぞ。
そういう訳でドカッと作ってみた。
うまく行ったつもりだったが、こうやって見ると膨らみが足りないな。
本場のマーラーガオは、まるで本阿弥光悦の有名な蒔絵硯箱のように中央がうず高く盛り上がるのだ。
どうも発酵が不十分だったよう。冬場で気温が低いせいかスポンジ生地がなかなか膨らまないのだ。発酵さえ上手く行けばもっと膨らむと思うのだが。でも、食べれば十分フワフワ。それが証拠に、
手で押さえても、
すぐまた元通りに。
しかし、”マーラーガオ”と言えば私はやはり”蓮香楼”を思い出す。
御存じの通りあそこは出来上がった点心をスチームワゴンで客席まで運んで来て、欲しい点心が来ると客はレシート代わりのカードを持って行ってスタンプを押してもらうシステム。”マ~ラ~ガオ~”と独特のイントネーションで売り子のおばちゃんの声がかかると、明らかに客たちが色めき立ちワゴンに殺到していたのが深く印象に残る。他にも人気メニューは数多くあるのに、”マーラーガオ”の時の反応は特別だったように思う。それも当然か。何しろ”蓮香楼”の”マーラーガオ”は他店のそれを遙かに超える程フワフワなのだ。一体どうすればあんなにフワフワになるのだろう。”陸羽”などと比べてチープに思われそうだが、やはり職人の腕は超一流なのか。ただ、ここで私が言いたいのはそのことではない。伝えたいのは、その時の店全体の雰囲気。”蝦餃””叉焼包”と言った人気役者がそろい、それらが登場するときは必ず専用の口上がかかる。そして、それに興奮して我を忘れる客たち。まるで芝居の出来がよかった時の劇場の観客席を見るかのよう。そうかと思えば、卓上では"洗杯(サイプイ)"が行われている。客たちがめいめいの流儀の慣れた手つきで朝の儀式を執り行っているのだ。誰か意図してそうなったわけではないのに、食事という行為が巧まずしてショーアップされ、しかもそれが日常的に繰り返される。何とまあ香港のレストランとは面白いところだろう!私が香港を訪問する目的は、そこで暮らす人々の人情(最高!)に触れることと、そうしたレストランの雰囲気のただ中に身を置くことなのである。