cognuts’s blog

一个日本人自己做正宗中国菜的博客。在餐厅一定要点炒饭和锅贴的人不要看。

琵琶鴨

数ある食材の中で何が一番好きかと問われたなら、私は水鳥がそうだと答えよう。家鴨、鵞鳥と聞いてそわそわせずにはいられない。ドナルド・ダックを見ても涎がでるくらいだ。淡白な味わいの鶏とは別の、肉にぎっしり血の詰まったような、独特のコク。私が日本の中華料理屋にさっぱり行く気がしないのは、大抵の店がこれを用意していないから。北京の北京ダックはもちろんのこと、広東の焼味、滷水しかり、江南の八宝鴨しかり、中国人にとっても水鳥の類いは最高の御馳走の一つだろう。仮にも中国料理の看板を上げながらそれを客に提供しないなんて、何と言う手抜き!まるで原節子の出ない小津映画、三船敏郎の出ない黒澤映画、高峰秀子の出ない成瀬巳喜男田中絹代の出ない溝口健二みたいなものではないか。つまり、「てんで物足りない!まるで観た気が、いや食った気がしねえや!」ってこってすわ!

さて、この料理。家鴨を"開き”にして焼いたその形が楽器の琵琶に似ているのでその名がある。(写真は胴だけだが、首がついているとちょうど棹のようで琵琶そのもの。)ただ、どうしてわざわざ”開き”にするのかよくわからない。広東省の珠海という所の名物料理らしいが、料理誕生の経緯など結局調べられずじまいだった。全体が平べったくなった分、焼き時間が短縮できて効率的か。いずれにせよ、日本の一般家庭にある食材を寝かせて焼く式のオーブンだと、そのままよりも開きにした方が圧倒的に焼きやすいのは確か。だからこそ私もそのやり方で家鴨を焼いたのだが、見事失敗したのは前々回記した通り。好物の家鴨料理をこのままで終わらせる訳に行かない。よって再チャレンジ。しかも今回は、料理にかける意気込みが違う。普段はあまりやらないのだが、特別に出来上がるまでのプロセスを紹介したいと思う。〈閲覧注意!生肉に近い物を掲載しているので、ここからはそういうのが苦手な人はご覧にならないように!〉

まず、開いた家鴨をこんな風に扇風機を当てて皮を乾かすのが、第一段階。これは、家鴨に限らず鶏もそうなのだが、皮を乾燥させないことには、広東ロースト特有の飴色の焼き目が付かないのだ。ただ、私もそうだったが、この生肉を常温の室内に晒すというプロセスに多くの日本人は抵抗を感じるかもしれない。「そんなことして、腐っちゃわない?」大丈夫。実際にやってみると、真夏の暑い盛りだといざ知らず、室温状態でも存外生肉は傷んだりしないものだ。逆に乾かすことで適当に水気が抜け、味が締まる。クリスマスにローストチキンを焼いたものの、「何だか水っぽくていまいちね」と感じた経験のある方には、是非一度試されることをお勧めしたい。それはともかく、今回はいつも以上に念入りに乾かすことにする。前回失敗したのは、この乾燥の工程が不十分だったせいのような気がしたからだ。何回かに分け皮水(酢と麦芽糖を混ぜたもの)を塗りながら風に当てる事三時間、その後冷蔵庫に入れ二十四時間放置する。そして、冷蔵庫から取り出した後、室温に戻すのと兼ねながらさらに二時間扇風機の風に晒す。するとどうだろう。おお、家鴨の皮がカサカサ(あまりいい表現ではないが、まさにそう)になっているではないか。いかにも焼けば皮がパリパリなりそうな感じ。そうか、youtubeの動画で最低でも四、五時間扇風機に当てろと言っていたのは、こういう状態にしろという意味だったか。フムフム。そう勝手に納得した後、いよいよ焼きの作業に入る。焦げ付き防止のために家鴨の全体に油を塗った後、二百十度に熱したオーブンに投入。五分焼いた後、百五十度に温度を下げる。これは、鶏を焼くのと逆。鶏の場合、低温で焼き始め、後から徐々に温度を上げて行くのだ。なぜ家鴨の場合逆にするのかは、よくわからん。皮に糖分が載っているので、下手に焼くとすぐに焦げてしまうからか。確かに最初に高温でもう一度全体的に乾燥させた後、低温でじっくり焼く焼き方だと、焦げ付きのリスクは低いような気がするわな…。まあ、いいや。ごちゃごちゃ言ってる暇があったら、取り合えず焼いてみるか。私は理屈であれこれ考えることは苦手。理論よりも実地の経験を貴ぶ実践派なのだ。焼きムラが出来ないように十五分毎に天板を回転させながら四十五分間。下の写真は十五分毎の焼き加減。

最初の十五分経過。まだ生焼け状態。

三十分経過。徐々に焼き目が付き始めた。そして、さらに十五分経過。まだ焼きが足りない感じがしたので、百七十度に温度を上げあと三分だけ焼くことに。三分後に取り出すと。

うん、いい感じではないか。香港のロースト専門店そのまま、と言ったらちょっと言いすぎだが、十分綺麗ではなかろうか。多少焦げ目がついてももうちょっと焼いて焼き目を濃くした方がいいような気もするが、却って台無しになっては元も子もない、今回はこのくらいに留めておこう。

どうです、このテリ。暫し見とれて、いつしか口元が綻ぶ。実を言うと私が家鴨を焼くのは前々回が初めてではない。それ以前から、それこそ十年以上前から焼いていたのだ。だが、一度として満足な焼き上がりになったためしがなかった。焼きムラができたり、均等に焼けてもても艶が出なかったり。こうして、一応むらなく全体に照りがついたのを見て感無量である。よく考えたら、全部中国の方が投稿した動画の通りにしただけで、何一つ私の創意工夫は入っていないのだが、それでも嬉しいものは嬉しい。広東ローストの飴色の輝きに魅せられて、それ以来ん十年、叉焼、クリスピーポーク、クリスピーチキンと焼いてきたが、家鴨は見た目においても味の上でもその中の極致だと思っていたので、今回一応他人に見せて恥ずかしくないものが出来て、ある意味一つの到達点に達したような気がしている。(何を大袈裟な、と笑はば笑え。そういう奴はどうせ物の値打ちがわからんつまらん奴だ。)

よし、能書きはそのくらいにしてそろそろカットしてみよう。

ちょっと、皿が小さかったかな。もう一回り大きな皿で余裕を持たせた方が見栄えがよかったろう。また、切り方も工夫が足りなかった。これは、後知恵だが、胸肉にあたる一番右上左上の部分はもっと薄くスライスして別皿に盛ればよかった。そこだけ甜麺醤をつけ餅(ピン)で包み、それ以外の部分は酸梅醤をつけて食べれば、北京ダックと広東ロースト、二通りの味が楽しめたであろうに。まあ今更言っても、後の祭り。それは、次回の楽しみに取って置こう。

全景を撮影。本当はもう一品魚料理を用意したかったのだが、近所のスーパーに適当なのが入っていなかったのであきらめることに。まあ、これだけでも十分お腹いっぱいになるでしょう。

では、実食。肝心のお味は?

残念ながら、期待ほどではなかったというのが正直な感想。あまり食材のせいにするのは、気が引けるが冷凍ものよくない所がでてしまったという印象。同じ冷凍ものでも前回のマレーシア産は、臭みもなく、柔らかで十分美味しかったが、今回のタイ産はちょと固くて癖がある。悲しいかな、これが冷凍ものの限界か。いずれ国内の業者とコンタクトを取って、冷凍ものでない新鮮な家鴨を焼いてみるか。

ただ、パリパリのサクサクで皮は文句なく美味かった。それだけは念のため。